目次
急速に進化するデジタル社会において、企業の競争力を維持するにはDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成が欠かせません。しかし研修には費用や時間の負担が伴い、社内の合意形成も容易ではありません。
そこで注目されているのが、DX研修に対する助成金制度の活用です。
本記事では、企業が活用できる助成金制度の種類や特徴、申請手順や注意点までを丁寧に解説します。
助成金の仕組みを理解し、自社に最適な制度を見極め、スムーズな申請準備と社内稟議を進められるようサポートします。
DX研修に助成金を活用する意義と導入の基本
企業がDXを推進するには、単なるIT導入だけでなく、社員のスキルアップを伴う組織的な変革が求められます。しかし、DX人材の育成には一定の費用が発生し、特に中小企業にとっては大きな負担になりがちです。
ここでは、なぜ今DX研修に助成金を使うべきなのか、また、助成金と補助金の違いを理解することで、最適な制度を選択するための基本を押さえます。
なぜ今DX研修に助成金を使うべきなのか
デジタル技術の急速な進展により、従業員のリスキリングが不可欠になっています。DXに対応できる人材が不足する中、外部研修や専門講座への投資は避けて通れません。
とはいえ、研修コストが障壁となってしまう企業も少なくありません。そこで活用したいのが国の人材開発支援助成金です。これにより、研修にかかる賃金や経費の一部を補助してもらえるため、費用面の不安を大きく軽減できます。
さらに、助成金を活用することで社内に計画的な教育体制を整えることができ、人材育成を継続的に実施する習慣が企業文化として根付きやすくなります。DXを推進する企業体質づくりにも繋がるため、今こそ積極的な活用が求められています。
助成金と補助金の違いと制度の特徴
助成金と補助金は似たような支援制度に見えますが、性質や申請方法が異なります。違いを理解することで、自社にとって使いやすい制度を選ぶ判断材料になります。
項目 | 助成金 | 補助金 |
支給主体 | 厚生労働省(雇用関係が中心) | 経済産業省・中小企業庁など |
対象 | 人材育成、雇用維持など | 設備投資、新技術導入など |
採択方式 | 条件を満たせば原則受給可 | 公募制で審査・採択あり |
申請タイミング | 事前に届け出が必須 | 公募期間中に申請 |
主な制度例 | 人材開発支援助成金 | IT導入補助金、ものづくり補助金 |
特に人材開発支援助成金は、研修計画を立てて事前に申請すれば、対象となる研修に対して一定割合の助成が受けられる制度です。OFF-JT(外部講座等)にも対応しているため、DX研修との相性も良く、初めて助成金を活用する企業にも適しています。
DX研修に使える助成金制度一覧と比較
DX研修に対応した助成金制度は複数あります。それぞれ対象や助成内容に違いがあり、自社の状況に合った制度を選ぶことが成功のカギです。
ここでは、代表的な「人材開発支援助成金」の3コースに加え、その他の補助金制度についても解説します。制度の特徴や比較ポイントを押さえれば、効果的な選定が可能です。
人材開発支援助成金「人材育成支援コース」
「人材育成支援コース」は、OFF-JTなどを通じて従業員の職業能力向上を目的とした訓練に対して助成されます。社内で実施される研修から外部講座まで、幅広く対象となります。
特徴
- 正社員・有期雇用労働者どちらも対象
- 助成対象:賃金助成・経費助成
- 助成率:経費助成45%(中小企業)、賃金助成800円/時間(賃金要件等を満たせば1,000円/時)
この制度の魅力は、企業規模を問わず使いやすい点です。計画的に研修を実施し、実績を報告するだけで助成金を受給できるため、DX研修の導入初期におすすめです。
人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」
このコースは、新たな事業展開や業態転換を視野に入れた高度デジタル人材の育成に特化しています。ITスキルやAI、データ活用など、より専門性の高い研修が対象です。
特徴
- デジタル分野のリスキリングを重視
- 助成率:経費助成最大75%、賃金助成最大1,000円/時間
- 新事業・新分野への展開を伴う場合に適用
事業の変革を伴うDX推進に向け、本格的な人材育成を目指す企業に最適です。助成率も高いため、専門的な外部講座を導入したい企業にとっては非常に魅力的な選択肢となります。
人材開発支援助成金「人への投資促進コース」
このコースは、社員のキャリア形成や自発的な能力開発を支援することを目的にした制度です。DXに関わる基礎スキルの習得や、ITリテラシー向上を目指す研修などが該当します。
特徴
- 労働者の主体的な学習を重視
- eラーニングなども対象に含まれる
- 助成率:経費助成最大75%、賃金助成最大1,000円/時間(高度デジタル/成長分野)
既存社員の底上げ型の育成に最適であり、長期的にDX人材を育てていきたい企業におすすめです。柔軟な研修設計が可能で、社内外の多様な講座を活用できます。
その他の補助金制度(IT導入補助金、ものづくり補助金)
助成金とは異なり、補助金制度は審査・採択が必要となるため、計画の明確さが求められますが、設備投資や業務プロセス全体の見直しも支援対象になるため、研修とあわせて活用することも可能です。
補助金名 | 対象 | 補助率 | 上限額 |
IT導入補助金 | DX関連ITツールの導入 | 最大2/3 | 最大450万円 |
ものづくり補助金 | 業務効率化・設備導入 | 最大1/2 | 製品・サービス高付加価値化枠は従業員規模に応じて上限750万〜2,500万円、グローバル枠は上限3,000万円 |
これらの制度を併用することで、ハード・ソフト両面からのDX推進が可能になります。ただし、公募制である点や申請難度が高い点には注意が必要です。
助成金申請の流れと押さえておきたい5つのステップ
助成金制度を活用するには、事前準備から申請・受給までの手続きを正しく理解しておくことが欠かせません。特に初めて申請する企業にとっては、書類の不備やタイミングのズレが不支給の原因になりやすいため、各ステップを丁寧に確認することが重要です。
ここでは、申請から受給までの流れを5つのステップに分けて解説します。
計画書の作成と社内合意形成
助成金申請にあたって最初に行うべきは、研修計画の作成と社内での合意形成です。対象者・研修内容・実施スケジュールを明確にし、費用見積もりを出すことが求められます。
実務ポイント
- DX推進部門や人事部門と連携して研修内容を整理
- 経営陣への報告資料として助成金制度の概要や費用対効果を提示
- 研修会社から見積書を取得し、支出計画を可視化
この段階で稟議を通すための情報整理を済ませておくと、申請の段取りが格段にスムーズになります。
計画届の提出と事前申請
研修実施前に必ず必要なのが、計画届の提出です。この届出がないと、後から研修を実施しても助成対象にはなりません。
注意点
- 原則、研修開始の1ヶ月前までに提出(訓練開始日の6か月前から1か月前までの間)
- 研修実施機関やカリキュラム、受講対象者を明記
- 労働局への提出が必要。電子申請にも対応
このステップが最も重要であり、「研修開始後に申請しても遅い」という点を必ず押さえておきましょう。
研修の実施と記録の保管
申請後、計画通りに研修を実施します。ここでのポイントは、実施証明としての記録保管です。
必要な記録
- 出席簿、研修写真、テキスト、アンケートなど
- 講師との契約書や研修費用の支払証明
- 労働時間との区分管理(OFF-JTであることの証明)
研修終了後すぐに書類を整理し、支給申請に向けて準備を進めることが肝要です。
支給申請と審査対応
研修が完了したら、実績に基づいて支給申請を行います。申請には多数の書類が必要となり、不備があると差戻しの可能性があります。
主な書類
- 実績報告書
- 講師費用の支出証憑
- 出席状況や時間数の記録
審査対応も含めて、スムーズなやり取りができる体制を整えることが求められます。必要であれば社会保険労務士など専門家の助言も活用しましょう。
助成金の受給とフォローアップ
審査を経て無事に支給決定が下りたら、助成金が企業口座に振り込まれます。ここで終了ではなく、今後の研修に向けたフォローアップが重要です。
実施後の活用方法
- 次回研修計画へのフィードバック
- 社内報告や成果共有で、教育文化の定着
- 受講者アンケートの分析
助成金を単発の施策で終わらせず、継続的な育成戦略に繋げることが成功のポイントです。
制度別の支給要件と助成額を整理して理解する
助成金制度は種類によって申請条件や助成内容が異なります。自社が対象となるかを見極めるには、支給要件や助成金額を正確に理解しておく必要があります。
ここでは、制度ごとの賃金助成・経費助成の違いや、研修形式の確認、対象者や申請期限のルールについて詳しく解説します。
賃金助成と経費助成の違い
助成金には主に賃金助成と経費助成の2種類があります。それぞれの性質と活用方法を理解することで、より効果的な制度利用が可能になります。
区分 | 内容 | 助成額の目安(中小企業) |
賃金助成 | 研修受講時間に対する賃金補填 | 760~960円/時間/人 |
経費助成 | 講師謝金、教材費、施設利用費など | 経費の45~75% |
賃金助成は従業員が研修に参加している間の給与補助であり、経費助成は研修自体にかかる費用の一部をカバーする制度です。特に外部講座を活用する場合、経費助成の比率が高いコースを選ぶことが費用対効果を左右します。
OFF-JT型研修に該当するかを確認する
助成対象となるには、実施する研修がOFF-JT(Off the Job Training)型である必要があります。これは業務から離れて行う研修を意味し、OJT(職場内教育)は原則対象外です。
OFF-JT研修の要件
- 社内または外部講師による集合研修やeラーニング
- 明確なカリキュラム・実施計画がある
- 勤務時間と切り分けられた時間に実施される
たとえば、社外のリスキリング講座やオンライン講座などは典型的なOFF-JT型に該当します。助成金制度では、この点を証明できる資料の準備が求められるため注意が必要です。
受講対象者・研修期間・申請期限のルール
助成金を受けるには、受講対象者や研修期間、申請期限にも細かいルールがあります。違反すると助成対象外になるため、事前の確認が不可欠です。
受講対象者
- 原則、雇用保険加入者(正社員・契約社員・パートも可)
- 雇用形態や勤務時間によっては対象外の場合あり
研修期間
- 短期でも申請可(1日数時間でも可能)
- 長期の場合は期間中の管理が重要
申請期限
- 研修開始の1ヶ月前までに計画届を提出
- 支給申請は訓練終了日の翌日から2か月以内(厳守)
制度ごとに多少の違いはありますが、「事前申請が絶対」「記録の保管が必須」という原則は共通しています。申請漏れや遅延を防ぐため、社内でスケジュール管理を徹底しましょう。
申請前に知っておきたい落とし穴と注意点
助成金制度は活用することで大きな費用対効果を生みますが、制度の仕組みを正確に理解していないと、申請が却下されたり、受給できなかったりするリスクがあります。
ここでは、実際の申請でありがちなミスや見落としやすいポイントを解説し、トラブルを回避するための注意点を整理します。
申請タイミングを逃さない
助成金申請において最も多い失敗が「タイミングの遅れ」です。特に人材開発支援助成金では、研修前の「計画届提出」が絶対条件であり、これを後回しにすると全てが無効になります。
見落としやすいタイミング
- 研修実施の1ヶ月以上前が目安
- 稟議や見積取得が長引いて、提出期限を過ぎるケース
- 外部研修日程に合わせて柔軟な対応が必要
スケジュールが遅れそうな場合は、暫定計画でも早めに届出を出しておくことが鉄則です。正式な内容は後から修正が可能なケースも多いため、まずは提出を最優先しましょう。
研修内容が助成対象外になるケース
助成金は「職業能力の向上」に資する内容であることが条件です。そのため、対象外の内容を含む研修は助成の対象になりません。
対象外とされることが多い研修例
- 業務マニュアルの説明や業務引き継ぎ
- 製品・サービスの営業トレーニング
- モチベーション向上や自己啓発セミナー
たとえDX関連であっても、業務知識に偏った研修は非対象となる可能性があるため、講座内容を事前に確認し、「職業能力の開発」が明確に示されたプログラムを選ぶことが大切です。
労働時間や法令違反による不支給リスク
申請が通っても、労務管理に不備があると助成金が取り消されることがあります。特に見落としがちなのが労働時間の扱いや法令遵守のチェックです。
不支給となる主な理由
- 残業時間の過少申告や未払い
- 労働基準法に違反する就労管理
- 就業規則や36協定が未整備
助成金を受給するには、労働環境が法令に適合していることが大前提です。申請前に就業規則や勤怠管理の体制を見直し、法的な問題がないかチェックすることが必要です。社会保険労務士の確認を受けるのも有効な手段です。
自社に最適な助成金制度を選ぶための判断ポイント
複数ある助成金制度の中から、自社に最適な制度を選ぶためには、会社の方針や人材の状況、実施可能な体制などを総合的に判断する必要があります。
ここでは、助成金選定における具体的なチェックポイントを3つに分けて解説します。
社内のDX方針と人材レベルからコースを選ぶ
助成金は、それぞれ対象とする人材育成のフェーズが異なります。したがって、自社のDX推進の段階や、社員のスキルレベルを踏まえて制度を選ぶことが重要です。
コース選定の視点
- DX初期:基礎教育に適した「人材育成支援コース」
- 業務変革フェーズ:専門性重視の「事業展開等リスキリング支援コース」
- 自律的学習促進:継続育成に適した「人への投資促進コース」
このように、DXの成熟度と照らし合わせながら選定することで、研修と制度がマッチし、助成の効果を最大化できます。
計画から実行までの社内体制を確認する
助成金を受けるには、事前準備・実施・報告まで一連のフローを正確に管理できる体制が必要です。特に中小企業では、実務担当者の負担が集中しやすいため、役割分担と支援体制が鍵となります。
体制確認のチェックリスト
- 研修内容の決定や講座選定は誰が担うか
- 計画届や申請書類の作成を担う部門・担当者の明確化
- 勤怠管理・記録保管・報告体制の整備
社内で対応が難しい場合は、助成金申請のサポート実績がある専門事業者の利用も視野に入れましょう。
補助率や助成額のシミュレーションを活用する
助成金のメリットを実感するためには、実際にどれくらいの補助が受けられるかを事前に把握しておくことが重要です。制度ごとの補助率や助成額を比較し、自社の研修計画に当てはめて試算することで、納得感のある選定が可能になります。
シミュレーションで確認する項目
- 受講者1人あたりの研修時間×賃金助成額
- 見積額に対する経費助成率(45%~75%)
- 支給上限額と比較して超過リスクの有無
たとえば、「事業展開等リスキリング支援コース」では、高額な講座費用も対象となるため、補助額が大きくなる傾向があります。シミュレーションを通じて、最も費用対効果の高い制度を見極めましょう。
DX研修の成功に向けて社内をどう巻き込むか
助成金制度を活用して研修を実施する場合でも、最終的に成果を上げるためには社内の理解と協力が不可欠です。関係部門の合意を得て、組織全体としてDXに取り組む体制を整えることで、単発の施策ではなく継続的な人材育成につなげられます。
ここでは、社内を巻き込むための具体的なアプローチを紹介します。
社内稟議・決裁に必要な情報を整理する
助成金を活用するには、まず経営層や管理職の稟議・決裁を通すプロセスが必要です。理解を得るためには、制度の詳細だけでなく、期待できる効果を明確に伝えることが重要です。
稟議に必要な情報の整理ポイント
- 対象となる助成金制度の概要と要件
- 研修の目的・実施内容・スケジュール
- 費用概算と助成金による削減効果
- 申請スケジュールと業務影響
これらを見やすく資料化して共有することで、経営層の承認を得やすくなります。また、制度の信頼性や実績を示す情報も加えると説得力が増します。
費用対効果を可視化して関係者を説得する
費用をかけて研修を実施する以上、投資対効果(ROI)を明確にすることが求められます。特に助成金を活用すれば、自己負担のコストを大幅に抑えられるため、その効果を数値で示すと関係者の納得度が高まります。
費用対効果を可視化する項目
- 研修実施費用と助成金受給額
- 受講後の業務改善・生産性向上の想定
- 研修参加者のスキル向上と配属先の貢献度
たとえば、助成金によって実質負担が半減する場合、短期的な費用回収シナリオを示すと説得材料になります。また、受講者の成長を社内で可視化する仕組みも整えておくと、研修の価値が定着します。
継続的な育成計画としてDXを定着させる
助成金は単発で終わる施策ではなく、中長期的な育成計画に組み込むことが理想です。計画的な人材育成は、企業全体の競争力を高める基盤となります。
DX人材育成を定着させる工夫
- 年間研修計画の中にDX講座を定期的に組み込む
- 各部署のDX推進担当を育成して社内展開を進める
- 成果報告会やスキルシェアの仕組みを導入する
DX人材育成を社内の仕組みにすることで、助成金の活用が「点」ではなく「面」の施策となり、組織全体にスキルアップの波が広がります。
まとめ
DX研修における助成金制度の活用は、企業にとってコストを抑えながら人材育成を進める強力な手段です。
人材開発支援助成金の「人材育成支援コース」「事業展開等リスキリング支援コース」「人への投資促進コース」など、それぞれの制度の特徴を理解し、自社のDX方針や人材レベルに応じて適切な制度を選ぶことが重要です。
また、事前申請や記録保管などの基本的な手続きをしっかり押さえることで、スムーズな受給につながります。
特に申請漏れや研修内容の不一致、法令違反などのリスクを避けるためには、制度に関する正しい理解と、社内体制の整備が欠かせません。
社内稟議のための情報整理や費用対効果の可視化を通じて、社内全体を巻き込みながらDX人材の育成を継続的に推進していくことが、企業の成長につながるでしょう。
NBCインターナショナル株式会社が提供するリスキリング講座では、各助成金制度に対応したカリキュラムを提案し、申請手続きの支援も行っています。助成金の有効活用を考える企業様は、ぜひサービス内容をご覧いただき、自社に最適な研修計画を立ててみてください。